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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)3723号 判決

静岡県清水市旭町八八の二

原告 北村嘉一

右訴訟代理人弁護士 内田博

同 今永博彬

同 川坂二郎

大阪府大阪市北区中之島三丁目三番地(送達場所東京都千代田区有楽町二丁目三番地)

被告 株式会社朝日新聞社

右代表者代表取締役 広岡知男

右訴訟代理人弁護士 芦苅直己

同 久保恭孝

同 関根攻

主文

一  被告は、原告に対し、朝日新聞の朝刊静岡版に二段幅で、「朝日新聞謝罪広告」および末尾の「朝日新聞社」の部分は二倍半活字、「当社のミスにより清水市旭町キャバレー「みんくす」社長北村嘉一氏の名誉信用を傷つける内容の記事を朝日新聞に掲載、頒布したことについてのお詫びと訂正」の部分は一倍半活字、その他の部分は一倍活字として別紙朝日新聞謝罪広告文案一のとおりの謝罪広告を一回掲載せよ。

二  被告は、原告に対し、金五〇万円およびこれに対する昭和四四年三月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

一  被告は、原告に対し、朝日新聞朝刊静岡版の紙面右最上部に五段幅で、本文は一倍活字、「朝日新聞謝罪広告」の部分は横書一段にカット白抜き見出しとし、「当社のミスにより清水市旭町キャバレー「みんくす」社長北村嘉一氏の名誉、信用を傷つける内容の記事を朝日新聞に掲載、頒布したことについてのお詫びと訂正」の部分は四倍活字で四段抜きの見出しとし、末尾の「朝日新聞社」の部分は四倍活字で二段抜きとして、別紙朝日新聞謝罪広告文案二のとおりの謝罪広告を一回掲載せよ。

二  被告は、原告に対し、毎日新聞、読売新聞、サンケイ新聞および中部日本新聞の各朝刊静岡版ならびに静岡新聞朝刊に「朝日新聞謝罪広告」の部分は八倍活字、「当社のミスにより清水市旭町キヤバレー「みんくす」社長北村嘉一氏の名誉、信用を傷つける内容の記事を朝日新聞に掲載、頒布したことについてのお詫びと訂正」の部分および末尾の「朝日新聞社」の部分はいずれも四倍活字、その他の部分は一倍活字として、別紙朝日新聞謝罪広告文案二のとおりの謝罪広告を一回掲載せよ。

三  被告は、原告に対し、金一、〇〇〇万円およびこれに対する昭和四四年三月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに第三項につき仮執行の宣言を求める。

第二請求の趣旨に対する答弁

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第三請求の原因

一  被告は、朝日新聞を発行する会社であるところ、昭和四四年三月一四日付同新聞朝刊静岡版の紙面右最上部一段に横書で「仮面はげば暴力社長」とのカット白抜きの見出し、「福祉に寄付の“美談の主”陰で店員に乱暴こわくて届けぬ被害者」との四段抜きの見出しのもとに、原告に関する別紙本件記事記載のとおりの内容の記事を掲載し、右新聞は静岡県一円に頒布された。

二  本件記事は、一般読者に対し原告が、社会福祉施設への寄付などの善行をかくれみのとして、その陰で用心棒に暴力団員を雇い、自身も暴力行為を常習としている暴力団員であり、かつ、原告と清水警察署との間にはくされ縁があって、原告は警察に顔がきくので、これら不法の行為も見逃してもらっているような印象を植えつけるものであるから、これにより原告の名誉は毀損された。

三  原告は、清水市内においてキャバレー「みんくす」のほかトルコ風呂「クイントルコ」および「ニュートルコ」を経営しているが、これらの店には暴力団関係者の出入りを固く断る旨掲示するなどして暴力団員に対しては毅然たる態度をもって臨んでいたのに、本件記事により原告の些細な暴行事件を重大な悪事の氷山の一角であるかのように歪曲して報道されたため、その名誉と信用を著しく傷つけられ、精神的に多大の打撃を被った。

この精神的苦痛に対する慰藉料は金一、〇〇〇万円が相当である。

四  本件記事は、被告の静岡支局の辺津芳次記者ら第一線記者が取材、執筆し、これを静岡支局長永井恵一が添削したうえ、被告の東京本社に送稿し、同本社通信部整理課の担当者が見出しをつけ、編集局長の権限で朝日新聞紙上に掲載したものである。

五  よって、原告は、被告に対し、その被用者である取材、編集担当者が被告の事業の執行につき違法に原告に加えた損害の賠償として、原告の名誉を回復するために朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、サンケイ新聞、中部日本新聞および静岡新聞紙上に請求の趣旨第一、二項記載のとおりの謝罪広告を各一回掲載することならびに慰藉料金一、〇〇〇万円およびこれに対する不法行為の日である昭和四四年三月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四請求の原因に対する答弁

第一項記載の事実は認める。第二項記載の事実は否認する。第三項記載の事実中原告がキャバレー「みんくす」を経営していることおよびその入口等に原告主張の掲示をしていることは認めるが、その余の事実は不知、第四項記載の事実は認める。

第五抗弁

一  本件記事は公共の利害に関する事実に係るものであり、被告は専ら公益を図る目的でこれを取材、執筆、掲載したものであって、かつ、掲載された事実はすべて真実である。

二  被告は、能う限りの裏付調査をし、慎重に検討したうえ、本件記事を真実と信じて掲載したものであるから真実と信ずるについて過失がない。

三  被告は、取材、編集担当者の監督につき相当の注意をした。

第六抗弁に対する答弁

抗弁事実を否認する。もっとも本件記事中、清水警察署が昭和四四年三月六日および同月一一日の二回にわたり暴行容疑で原告を清水区検察庁に書類送検したこと、三月一一日送検の容疑事実が本件記事掲載のとおりであること、原告が数年前から老人ホーム等にしばしば相当額を寄付するなどの善行を続けてきたこと、社会党の今村高太郎、石川佐輔両県会議員が本件記事記載の趣旨の質問をし、正岡県警本部長が右記事記載の趣旨の答弁をしたことは真実であるが、その余の事実はすべて真実に反する。

第七証拠関係≪省略≫

理由

一  本件記事による名誉毀損の成立

被告が朝日新聞を発行している会社であることおよび昭和四四年三月一四日付同新聞朝刊静岡版の原告主張の部分にその主張の活字で本件記事が掲載され、これが静岡県一円に頒布されたことは、当事者間に争いがない。

本件記事のうち、見出しの「仮面はげば暴力社長」「陰で店員に乱暴、こわくて届けぬ被害者」の部分、本文中の「善行者の仮面ははがされた」との部分、原告の送検された暴行事件を記載した部分、「警察の調べでは北村は用心棒に暴力団員をやとい、北村自身もしばしば従業員などに暴力をふるっていた疑いがある。これまでも従業員などから「北村に暴行された」と清水署に通報はときどきあったが、警察の調べでは調べても傷跡や暴行の証拠とされるものが残されてなかったため、手がかりがつかめなかった」との部分および「みんくす」の元マネージャーの談話形式の部分は、原告の非行事実を記載したものである。右記事のなかには「暴力をふるっていた疑いがある」と記載して断定を避けている部分もあるが、新聞記事の通常の読者は、記事の大きさや見出しの記載によって最も強く印象づけられ、その記事全体の文意を把握することが通例であるから、本件記事の大きさおよび見出しの断定的な記載からして、通常人が本件記事を全体として通読するときは、原告が、善行をかくれみのとして、暴力団を用心棒に雇い、自身もしばしば他人に暴行を加えている粗暴な者であるとの印象を受けることは否定できない。原告がこのような行為をしていることが流布されると、その社会的評価は当然低下すると考えられるから、右の記事は、原告の名誉を毀損するものである。

原告は、本件記事は、一般読者に対し、原告と清水警察署との間にくされ縁があり、このため原告が不法な行為をしても警察から見のがして貰っているような印象を与えるとも主張する。右記事のうち、「北村は市の有力者にも面識があり、清水市内で顔がきいているのを誇っていたようで……中略……今度の北村の暴行事件に対しては徹底的に余罪を究明しようとの態度をとっている。」との部分は、あるいは原告の関係者が読めば原告が主張する趣旨に読めるかも知れない。しかし、新聞は大衆に読まれるものであるから、当該記事が名誉を毀損するかどうかは一般読者の普通の注意をもってする読み方を基準として判断すべきものである。本件記事は、原告と警察との間にくされ縁があるのではないかとの噂が流れている旨を記載し、その根拠として、原告が清水警察署に対し、交通安全のラベルを貼ったマッチと椅子を寄付したと記している。しかしこれら寄付の事実は、そのことだけでは一般読者をして原告と清水警察署との間のくされ縁を推測させるに十分なものではなく、むしろ、本件記事中警察関係者のこれを否定する談話や清水警察署長がその噂に憤慨して原告が寄付した椅子を焼却処分した旨の記事によって、一般読者は、この噂が事実無根のものと考えるであろうから、原告と清水警察署との間にくされ縁があって、原告が不法の行為をしても見逃して貰っているとまで印象づけられることはなく、その意味では原告の名誉を毀損することにはならない。

二  本件記事の真実性

本件記事は、まだ公訴を提起されない被疑事実とこれを取扱った清水警察署の事件処理に関する事実を記載したものであるから、事柄の性質上公共の利害にかかわるものである。そして、≪証拠省略≫によると、被告の静岡支局長をしていた永井恵一は、昭和四四年三月四日ごろ、同支局あて原告の暴行事件などを通報する者があったので、これを契機として、同支局員に原告の身辺を調査させた結果、本件記事の事実があると信ずるに至ったこと、そこで、この事実を公表して市民の批判に訴えることが新聞の使命と考え、調査結果を同支局員辺津芳次記者に執筆させ、永井が添削したうえ、被告の東京本社あて送稿したこと、同本社でこの原稿の内容から判断して見出しの部分を加え、編集局長の権限で報道記事として朝日新聞紙上に掲載したことが認められる(記事執筆から掲載までの経過は当事者間に争いない。)。右の事実によれば、本件記事は、もっぱら公益を図る目的で取材、執筆、掲載されたということができる。このように公表された事実が公共の利害にかかわるもので、事実の公表がもっぱら公益を団る目的でなされた場合に、その事実が真実であると証明されたときは、名誉毀損の違法性が阻却され、不法行為の責を負わないと解される。

原告は、本件記事がすべて真実であると主張する。

≪証拠省略≫によれば、原告は昭和四四年三月六日暴行容疑で清水警察署から清水区検察庁に書類送検されたこと、この送致事実は、被害者の届出どおり原告は同年二月七日午後六時半ごろ「みんくす」のホステス加奈子こと平田由美子が店をやめたいと申し出たのを怒り、同女を「みんくす」店内においポリバケツで殴り、さらにエレベーターの前と中でも殴ったというものであるが、原告は警察での取調べにおいて、ポリバケツで殴ったことを否認し、同女が暴力団員と目されしかも妻子ある者と同棲するためにやめることがわかったので、これを諭すため平手で同女の顔面を二回殴打したものであると弁解したため、送致書にはこのことも記載されていたこと、原告は、同年二月二一日「みんくす」のボーイ浅野一が原告の未成年の長男を無断で連れ出して一週間も遊び歩いたことを怒って右浅野の顔面を殴打し、このため、同年三月一一日、この暴行容疑で清水警察署から清水区検察庁に追送検されたことが認められる。右認定を動かすに足りる証拠はない。

右の事実によれば、本件記事のうち、原告が書類送検された事実に関する部分は、送致事実が重要な事実であって、その部分に限っては真実と一致するから、原告の弁解を掲載しなくても真実であると認められる。

したがって、本件記事中この部分は名誉毀損とはならない。

原告が暴力団員を用心棒に雇い、原告自身もしばしば従業員らに暴力をふるっているとの事実については、≪証拠省略≫中に、被告の静岡支局長が取材中、元暴力団員と目される者から「みんくす」に行って金の取立てをやるといい小遣いになると聞いた旨および「みんくす」の元従業員が同支局員に対し、原告から殴られたと語った旨の供述部分があり、≪証拠省略≫中に同人が「みんくす」に営業主任として勤めていた昭和四二年七月から昭和四三年三月ごろまでの間に同じく営業主任をしていた出島某が原告から暴行を受けたことを聞いた旨およびそのほかにも従業員間に原告が従業員に暴行した旨の噂があった旨の供述部分がある。しかし、右永井の供述によっても、その元暴力団員が誰であるか、どこへ何の金の取立てに行ったのか、あるいは、原告が、いつ、誰を、いかなる程度に殴ったのかも明らかでなく、また、右田中の供述は伝聞に基づくもので、しかもその伝聞過程が極めてあいまいであるから、これらの供述をもっては右事実を真実と認めるに足りず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。のみならず、前記送検にかかる事件以前に従業員などから清水警察署に対し、原告に暴行されたと通報があったことおよび警察がその暴行事件について捜査をしたことを認めるに足りる証拠もない。

また、≪証拠省略≫によると、原告は、数年来、福祉事務所、老人福祉施設、学校、町内会等に対し、数万円から数一〇万円の寄付をするなどの善行を重ねていたことが認められるが、原告がこの善行を仮面として用い、その陰で暴行を働いていたものであることを認める証拠は全くない。かえって、≪証拠省略≫によれば、右の善行は、原告の全くの善意からなされたものであり、送検された事件とはかかわりのないことであって、前示の送検された事件の動機、態様からしても、本件記事によって仮面をはぐなどと指弾されるべき筋合のものではないと認められるのである。

新聞記事の真実性は、記事全体について要求されることではなく、重要な部分について存在すればよい。前認定によれば送致事実は真実と符合するのであるが、本件記事を全体として見れば、原告が善行を仮面として、暴力団を用心棒に雇い、しばしば他人に暴力をふるっているという事実は極めて重要な事実であることを失わず、特に見出しによれば、これが正に枢要な事実と解されるのであり、しかもそれは真実と認められないから、本件記事中右事実に関する部分は、原告の名誉を毀損する違法な記事であるといわなければならない。およそ公器たる新聞社は、人の善行は善行として卒直に表彰報道すべき使命を有する。さしたる根拠もないのに、善行を暴力と関連づけ、善行が暴力のかくれみのとしてなされているような印象を与える記事を掲載することは、暴力だけを報道するよりも、一般読者に与えるその人の非行性の印象は強烈である。特に本件記事の見出し部分は、端的にそのことを表示するものであって、一般読者から信頼されているわが国一流の被告新聞社の記事としては、原告の名誉を毀損することが大であるといわなければならない。

三  真実と信ずることの相当性

被告は、本件記事掲載の事実を真実と信ずるについて過失がない旨主張する。≪証拠省略≫中には、被告の静岡支局員が清水警察署、静岡県警本部、清水区検察庁、静岡地方検察庁、今村高五郎県会議員、「みんくす」の元従業員ら二〇数名に会って取材し、また、同支局員が取材中に見た警察作成の捜査のテキストに原告は粗暴な性格のヤクザでしばしば他人に暴行を加えており、昭和三三年ごろ監禁事件を起しているが、このような人の事件は被害者が後難をおそれて届け出ず、また取調べても本当のことを言わないため潜在しているから、心して捜査をしなければならないと記載されていたことなどから、本件記事掲載の事実を真実と信ずるに至った旨の供述がある。しかしながら、右供述によっても、捜査のテキストなる文書が警察のいかなる者によって、いかなる資料に基づき作成されたものか、あるいは、原告のどのような事件がどの程度に具体的に記載されているのか明らかでなく、さらに、本件記事中の名誉毀損部分である原告が暴力団員を用心棒に雇い、原告自身もしばしば従業員らに暴行を加えているとか、善行を仮面にしているとかの事実および「みんくす」の元マネージャーの談話形式の部分は、記事の出所など取材経過が全く明らかでない。このように、あいまいな供述だけでは、被告の取材、編集担当者が本件記事を真実と信ずるについて過失がないと認めるわけにはいかず、他に被告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

四  被告の責任

本件記事が被告の事業の執行として、被告の被用者によっ取材、執筆、掲載されたものであることは、当事者間に争いがない。被告は、右被用者の監督につき相当の注意をした旨主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、被告は、その被用者がした名誉毀損により原告が被った損害を賠償する義務がある。

五  損害賠償の方法と程度

(1)  謝罪広告

≪証拠省略≫によれば、原告は、清水市内において、従業員約一六〇名を擁し、同市内の有力会社を多数顧客とするキャバレー「みんくす」のほかトルコ風呂「クイントルコ」、「ニュートルコ」を経営し、「みんくす」だけでも年間約一億五千万円の売上げを得ていた者であること、ところが本件記事が流布されたことにより、著名な芸能人は「みんくす」への出演を拒み、顧客も出入りを差控えるようになり、従業員間にも不安と動揺を生ずるなどして営業上多大の支障を被ったことが認められる。このように原告は、本件名誉毀損によってその社会生活上多大の影響を受ける立場にあるから、これを救済するには、金銭賠償だけでは十分とはいえず、名誉を回復するために新聞などマスコミの手段により被告をして謝罪広告をさせるのが適当である。

この謝罪広告の内容、規模、回数は、被害者の社会的地位と活動範囲、名誉毀損の方法、程度等一切の事情を斟酌してきめるべきである。

原告は、本件記事全部が名誉毀損文書であることを前提として、別紙朝日新聞謝罪広告文案二のとおりの謝罪広告の掲載を求める。しかし、前判示のとおり、本件記事のうちには真実に合致するがために名誉毀損にならない部分もあるから、この関係部分を記事として存置し、名誉毀損となる部分を取り消す方法により別紙朝日新聞謝罪広告文案一のとおりの内容の謝罪広告を命ずるのが相当である。そして、右謝罪広告の規模、回数につき、原告は、本件記事の見出しと同規模の活字による見出しを付した謝罪広告を朝日新聞朝刊静岡版紙上に掲載を求めるほか、毎日新聞、読売新聞、サンケイ新聞および中部日本新聞の各朝刊静岡版ならびに静岡新聞朝刊紙上にも掲載を求める。しかし、新聞記事によって名誉が損毀され、これが回復方法として謝罪広告を認める場合は、名誉毀損の記事が掲載された新聞に謝罪広告をのせるのが最良の方法である。けだし新聞読者は一般に固定しているから、これが名誉毀損記事を了知した読者に到達する最善の途であるからである。本件記事は朝日新聞朝刊静岡版に一回掲載されただけであり、右記事中には名誉毀損にわたらない報道記事もあること、原告が従業員に対して暴行を加え、そのことが本件記事掲載の一因となっていることおよび被告の地位など前認定の諸事情と後記のとおり慰藉料請求を認容することなどを考慮し、右の謝罪広告を本件記事が掲載された朝日新聞の朝刊静岡版に、二段巾で、「朝日新聞謝罪広告」の部分を二倍半活字、その後に続く見出しの部分を一倍半活字、末尾の「朝日新聞社」の部分を二倍半活字、その余の部分を一倍活字として、一回掲載すべきことを命ずるのが相当である。

(2)  慰藉料

原告本人尋問の結果によれば、原告は、「みんくす」の出入口に暴力団関係者の出入りを断る旨掲示するなどして暴力団に対して厳しい態度をとっていたのに、本件記事によって原告があたかも暴力団関係者であるように流布されたことにより、家族ともども肩見の狭い思いをし、前示のとおり営業にも差支えを生ずるなどして多大の精神的打撃を受けたことが認められる。このことと前認定の被告の地位、活動範囲、本件記事掲載の動機、態様などの諸事情と謝罪広告を認容したことを勘案すれば、原告の被った精神的苦痛を慰藉するためには金五〇〇、〇〇〇円をもってするのが相当である。

六  結論

よって、原告の請求のうち、被告に対し、朝日新聞朝刊静岡版に別紙朝日新聞謝罪広告(文案一)のとおりの謝罪広告の掲載を求める部分ならびに慰藉料金五〇万円およびこれに対する不法行為の日である昭和四四年三月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分を正当として認容し、その余の請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用し、仮執行の宣言はこれを付すのを不相当と認めてその申立を却下し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩村弘雄 裁判官 堀口武彦 裁判官 小林亘)

〈以下省略〉

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